ジュニア世代の指導をしながら、自らシニアの選手としても強化に携わってきましたが、論理的理解が進んでいるはずの大人であっても、ことディフェンスに対する考え方は子供と同じで野球の守備(攻撃の裏側、受身的なもの)、リ・アクション動作でしかないことを多く感じます。
仕掛けるディフェンスの第1歩、相手ボールへの寄せ方から始まる、それが戦術です。
1.サッカーというゲームとは?
最初にサッカーの特に攻守に関する要素について考えてみましょう。
22人のプレーヤーに1個のボール、攻撃と守備が連続的に入れ替わりボールを中心に攻守ともに反応しながらもそれぞれが攻守の狙いをもってアクションを打ち続ける。
ボールを持たない21人の狙いの深さの勝敗ゲームとも言えるでしょう。
そのなかでディフェンスは決して攻撃に対しての「受身」ではなく、反撃のための準備作業と言えます。
主体(主導)的なディフェンスはゲームの進め方において重要な要素となります。
そのディフェンスの局面で「球際に寄せる」とよく言われますが、「寄せる」とは相手のボールホルダーに対して適切な間合いでアプローチし、ボールを中心とした相手の動きを制限することですが、その目的として、大きくは3つほどに分けられます。
1.相手のボールを奪い取る
1つ目は、ディフェンスの最大の見せ場、相手のボールを奪うために強く一気に寄せます。
相手も奪いに来る勢いを利用して抜き去る(上手い選手ほどディフェンダーの早い寄せを待っている)ことを狙っているので、しっかりと相手の状況を見ながらファウル覚悟でからだ全体でガツンと行きます。奪えたときにはカウンターの大チャンスとなります。
2.前を向かせない
2つ目は、相手に前(ゴール方向)を向かせない、背を向けさせるようにべったりと寄せます。
相手に背を向けさせるには、前段階で相手に苦手意識を植え付けておくことが大事、前向きで勝負をかけにくくすることで後方の味方へバックパスで逃げさせるようにします。
苦手意識を植え付けるためには、前項1.の「ガツン!」をやっておかなくてはなりません。
3.攻撃のリズムを遅らせる
3つ目は、あえて相手にボールを持たせ、守備を整える時間を作り出すように適度な間合いをもって寄せておきます。
その場でボールを奪われる脅威をあまり感じさせないように孤立させて、相手に無駄なドリブルかパスかを思案させておく。(通常、この状態に陥ると「早く出せよ」の声が相手のチームメイトから掛かっているはず)
いずれの寄せ方も「間合い」が重要ですが、思った方向へボールを運ばせるように相手との間合いを取りながら追い込むことを「絞り込む」と言いますが、この練習をイメージできるのが以下の方法です。
そのトレーニング相手は、金魚と公園のハト。
金魚すくいで思ったように金魚を隅に追い込むとか、正面から歩いてきたハトに背を向けさせるようターンさせることを実際にやってみる。(これは結構小学生にはウケるトレーニングです)
脇道に反れましたので、本題の「いつ寄せるのか?」に戻しましょう。
2.寄せるタイミングの取り方
さて、ここからがサッカーにおけるボールに寄せるタイミングの取り方になります。
前章でどのように寄せるかは述べましたが、一言でタイミングと言っても「どこで」と「いつ」のタイミングがあります。そのタイミングの判断には、自分の位置、相手とのパワーバランス、味方(後方)の準備等が重要な要素となります。
1.どこでどのように寄せるのか
まず「どこで」ということでは、ピッチを縦に3等分したエリアを想定し、真ん中の360°のスペースがあるエリアから追い込むのは非常に難しいので、出来る限り両サイドのエリアへ流すようにします。
片方がタッチラインとなるエリアで追い込んで詰まらせる、背を向けさせバックパスで戻させることを狙います。(ここまで出来ればボールを奪えなくてもディフェンスの勝利)
2.いつどういう時に寄せるのか
最後に「いつ」寄せるかですが、それはパスが人から人へ渡る間の「時間」を使って相手に一歩でも近づき寄せるようにします。
ここでその「時間」についてちょっと考えて見ましょう。
サッカーは、22人のプレーヤーと1個のボールで行いますが、どちらのプレーヤーもボールに触れていない時間の方が圧倒的に多いのです。
一人のプレーヤーがボールに触れる時間は試合時間が90分としても1分ほどと言われており、どちらのものでもないボールが60分間転がって行き来していることになります。
転がっているその「時間」を使って、パスの出し手・受け手以外の「第3の(選手の)動き」でゴールを狙うのが優れたオフェンスならば、同じ時間を使って寄せる(ボールホルダーとの距離を縮める)ことを続けるのが優れたディフェンスとなります。
言い換えれば、一人の選手が約89分間ボールのない時に何を考え動いているのか、攻守ともにこの「動き」の質が求められるのがサッカーという競技の本質であるということになります。